愛している! イシハラユウジロウ

愛している! イシハラユウジロウ



[あなた、イシハラユジロ 知ってる?]
[え?イシ、、なに?それは何ですか?人の名前ですか?]
[うん、イシハラユウジロウ]
[もし、石原サトミじゃないですか?]
[さと? 何?イシハラユウジロウ!知らない? 石原裕次郎が一番格好いいですよ~]
[玲子さんの恋人ですか?]と聞くと、
[いや、歌手]と答えた。

玲子さんは、うちの施設に通っている利用者だ。
[歌手?私は外国人です。日本の歌手はよく知らないんです。]
[え?あなた外国人なの? 嘘でしょ?]
[私は外国人です。もう何回言ったですけど。そして、最近は日本でBTSが流行ってるみたいだけど? そんなにハンサムですか?」と言ったら、

[ビ、ティ、何?何それ?]
[B.T.S 知らないんですか?一番格好いい歌手なんですけど。]
[そんなもん、知らん!]
[そうなんや、さて、石原裕次郎はおいくつですか?]
[40歳]
[え〜玲子さん、若い男好きですね〜玲子さん、すご〜い、まだ生きている〜!!]
[40歳で死んだ]
[え?どういうことですか? 急に死ぬ話?]
[私石原裕次郎の葬式全部見たよ。]
[え?その人の葬式まで行ったんですか?]
[いいえ、テレビで見たの。]
[(心の中で : ? 今、本当の話?幻想?テレビで葬式が出たんですって? 何言ってるんだろ。)]


玲子さんは認知症があるんですが、明るい性格の私たちの施設の利用者です。80歳のおばあさん。突然、私に「石原裕次郎」のことを聞いてきた。私はもちろん誰なのか分からなかった。本当に日本の歌手かな?と思って隣の日本人職員に聞いてみた。

[森田さん! 石原裕次郎って聞いたことある? 日本の歌手だと言ってるんですけど?]
[うん、歌手です。その歌手有名だったんだけど、それから亡くなってかなり経ったんだけど?]
[(心の中で:え〜?) れいこさんの話は全部本当だったの?]

そして隣に座っている玲子さんにもう一度質問をした。

[玲子さん、石原裕次郎は本当の歌手ですね。]
[もちろん、もちろん、私の家に行くと、テレビにいつも石原裕次郎が出るんだよ。]

この話は本物ではないようだ。昔有名だった歌手がいくら有名でも、今テレビにいつも出るわけではない。たまにテレビで出てくるかもしれないけどと、いつもテレビで出てくるという話はちょっと違う〜と思いながら。

「玲子お母さん、私がここのテレビで石原裕次郎が出でくるように、私がなんとかして見ましょうか?」と言うと、
[本当?]

私は施設のリビングにあるテレビをつけた。うちの施設のテレビはYoutubeの機能がある。テレビをつけてYoutubeをつないでひらがなを検索した。
[えと、、い、、し、、は、、ら、、ゆ、、じ、、ろ、、]とゆっくり発音しながら検索したら、本当に誰かわからなんだけど、人の顔が出てきた。昭和時代の感じの色んな映像が出て来た。マイクを持っているイケメンの若い男。多分、この男かもしれない。

この男の人は玲子さんが好きな歌手かな?と、思った瞬間、いきなり玲子さんの大きな声が聞こえた。

玲子さんが拍手をしながら喜ぶ。
[わ〜かっこいい! 裕次郎!!裕次郎!! あなた、本当にすごいね!]と急に私を見て明るくなった顔で玲子さんが笑いながら褒め言葉が絶えなかった。

私は石原裕次郎の映像を流した。その後、玲子さんはずっと動かずにテレビを見ていた。まるで初恋の彼氏を見つめる10代の少女のような姿だった。いくら年をとっても女はいつも少女のようだ。

その後、いつか玲子さんの家を訪問介護のため、訪れたとき、テレビのそばにビデオテープがいくつかあるのを見つけた。何のビデオテープだろう?考えながら、ちらっとタイトルを見るといずれも「石原裕次郎のテレビ放送の録画」のテープだった。

いつ録画をしておいたのかも分からないほど古いテープ、以前録画をしておいて毎日そのテープを見ているようだった。玲子さんが本人の家に行くと、いつも石原裕次郎がテレビに出るという話は正しい話だったのだ。

ブログを書いている今も玲子さんの声が聞こえるようだ。

[石原裕次郎が一番格好いいよ〜〜〜。]………………………………………….
*老年期の特徴 : 年を取っても、心だけはいつも少女である。